Title: ENUMの概要 Author: 藤原和典(fujiwara@jprs.co.jp) Date: 2004/8/20 1. ENUMの概要 ENUMは、電話番号に対してインターネット上のサービスを対応させる機構で ある。電話番号としてITU-Tにより管理されるE.164電話番号を用い、それをド メイン名に変換し、URIを登録することができるリソースレコードをDNSに定義 することで、電話番号に対応するURIをDNSに登録できるようにした。 ENUMの標準化が行なわれてきている背景として、E.164電話番号[E164]は全 世界でユニークな番号であること、数字だけであるので言語に依存しないこと、 またインターネットで音声を運べる環境が整備され、VoIP(Voice over IP)シ ステムが普及してきたことがあげられる。 そこで、VoIP端末を(電話)番号で指定したい、VoIP端末(IP電話)の番号はイ ンターネットのデータベースで管理したい、さらには、インターネットの各種 資源を(電話)番号で指定したいという考えがあり、ENUMのアイデアが生まれて いった。 ところで、10年以上前に遠隔地への印刷プロトコルの標準化を行なっていた ときのアイデアとして、電話番号に対応する印刷機器をDNSに登録する方式が RFC1486, RFC1528, RFC1529, RFC1530として提案されている。ドメイン名に対 してMXレコードを指定し、emailで文書を受け取るという方式であった。ENUM はそれを拡張した機構と考えられる。[RFC1528] ENUMのプロトコルはIETF enumワーキンググループで標準化され、2000年9 月にRFC2916がProposed Standardとして発行された。RFC2916では電話番号か らドメイン名への変換方式が定義され、専用のドメイン名として e164.arpa が用意された。また、ドメイン名へのサービス登録方法として、RFC2915で定 義されているNAPTRリソースレコードを用い、またE2Uというサービスを用いる ことが決められた。その後、NAPTRリソースレコードがDDDSという仕組みの中 で再定義されたことや曖昧さを減らすためにRFC2916を改良し、2004年4月に RFC3761として発行された。[RFC2916][RFC3761] ENUMと同じ方式を、ENUMのTLDである e164.arpa 以外のドメイン名を用いて 実装した場合のことを、ENUMライクという。ENUMライクDNSを用いて組織内の 内線番号の管理をしたり、電話網の経路制御のデータベースを実装するという ことが考えられる。また、ENUMの運用実験のことをENUMトライアルというが、 いくつかのENUMトライアルでは、e164.arpa以下の正式ドメイン名を登録でき ず、独自TLDを決め、実験している。例えば、日本のENUM Trial JAPAN では e164.jpを用いている。[ETJP] 2. ENUMの詳細 2.1 電話番号からドメイン名への変換[RFC3761] ENUMは、ITU-Tの決めたE.164電話番号をドメイン名に対応付ける。 以下、 03-5215-8451 (JPRSの代表電話番号) を例として変換方法を示す。 (1) E.164番号は、国コードの後に各国の電話番号を付けた番号である。日 本の国コードは81であり、0がら始まる市外局番を含む電話番号から先 頭の0を取り、先頭に+81を付けた番号がE.164番号である。 +81-3-5215-8451 (E.164番号表記, - は不要) (2) E.164電話番号から、先頭の + を除く数字以外の文字(-など)を削除す る。これがENUM検索時に用いられる文字列 AUSとなる。 +81352158451 (AUS) (3) 次に先頭の+を削除し、数字を逆順に並べ変える。 15485125318 (4) 数字の間に "." を挿入する。 1.5.4.8.5.1.2.5.3.1.8 (5) 最後に .e164.arpa を追加するとENUMドメイン名となる。 1.5.4.8.5.1.2.5.3.1.8.e164.arpa (ENUMドメイン名) 2.2 NAPTRリソースレコード 2.1で示したドメイン名に対し、RFC3401,3402,3404,3404 DDDS[RFC3401]で 定義されたNAPTRリソースレコードを用いてURIを登録する。NAPTR RRは以下の ように記述する。 label IN NAPTR order preference flags service regexp replacement orderとpreferenceには符合なし整数を書き、数値の小さいものを優先する。 preferenceよりもorderを先に評価する。 有効なリソースレコードのうち、order値が最小のエントリを採用する。 エントリが複数存在した場合、preference値が小さいものを用いる。 flagsには S A U P "" などの文字を書き、NAPTRリソースレコードの評価方 法を示す。ENUMでは基本的には U を書き、NAPTR RRはURIを出力する。 serviceには、このNAPTR RRエントリが適用されるプロトコル・サービスを 指定する。ENUMの場合はE2U+で始まり、IANAに登録されたenum service文字 列を指定する。 regexpフィールドにはAUSからの置換規則を書く。"!パターン!置換文字列!" のように指定する。パターンはPOSIXの拡張正規表現で、"()"にマッチした 文字列を、置換文字列中の \1 〜 \9 で参照できる。 replacementフィールドには、ENUMの場合は "." を書く。 ENUM実装に関するI-Dでは、order値を100固定とすること、flagは"U"固定と すること、regexpフィールドの区切り文字を '!' とすることなどを提案し ている。[id-experiences] 2.3 ENUMで取り扱うと想定されるサービス 現在は、以下の通信サービスについて、ENUMへの登録方法が提案され、合意 されつつある。 enum service |URI Scheme | RFC/I-D | --------------+------------+-------------+----------------- sip |sip:, sips: | [RFC3764] |SIP h323 |h323: | [RFC3762] |H.323 email:mailto |mailto: | [id-msg] |email fax:tel |tel: | [id-msg] |PSTN経由のFAX sms:tel |tel: | [id-msg] |Short Message Service sms:mailto |mailto: | [id-msg] |Short Message Service ems:tel |tel: | [id-msg] |Enhanced Message Service ems:mailto |mailto: | [id-msg] |Enhanced Message Service mms:tel |tel: | [id-msg] |Multimedia Message Service mms:mailto |mailto: | [id-msg] |Multimedia Message Service web:http |http: | [id-webft] |web page web:https |https: | [id-webft] |web page(TLS) ft:ftp |ftp: | [id-webft] |FTP pres |pres: | [id-pres] |Presence Services void:mailto |mailto: | [id-void] |Void service ifax:mailto |mailto: | [id-fax] |Internet FAX 2.4 登録例 電話番号として、さきほどと同様にJPRSの代表番号を例としていくつかの登録 例を示す。AUSは+81352158451とする。 1.5.4.8.5.1.2.5.3.1.8.e164.arpa. IN NAPTR 100 10 “u” “E2U+sip” “!^\+813(.* )$!sip:\1@tokyo.sipisp.jp!” . というDNS登録があった場合、+81352972571に対するENUM検索結果は、 sip:52158451@tokyo.sipisp.jpになる。 1.5.4.8.5.1.2.5.3.1.8.e164.arpa. IN NAPTR 100 10 “u” “E2U+sip” “!^.*$!sip: info@jprs.jp!” . IN NAPTR 100 10 “u” “E2U+email:mailto” “! ^.*$!mailto:info@jprs.jp!” . というDNS登録があった場合、+81352158451に対するENUM検索結果は、 sip:info@jprs.jpとmailto:info@jprs.jpとなる。 同じ番号でも、SIPにのみ対応しているENUMクライアントから参照した場合、 サービスフィールドが E2U+sip であるエントリを採用し、 sip:info@jprs.jp を結果とする。 3. ENUM DNSの管理構造 3.1 ENUM DNSの管理[RFC3026][RFC3245][E164-S3] IETF enumワーキンググープは電話番号に対してURIを登録する方式を定義し ているが、ITU-Tと各国政府が電話番号を管理しているため、ENUM DNS の運用 についてはITU-T・IABと各国政府が管理責任を持つ。ENUM DNSのTLDとなる E164.ARPAはTier0と呼ばれ、ITU-TとIABから委任をうけたRIPE NCCが運用して いる。現在は、トライアルの段階である。 各国の電話番号は階層はTier1と呼ばれ、Tier1レジストリは各国政府の資格 確認のもとでTier0に登録される。各国内の運用は、各国で決める。 NAPTRリソースレコードを保持する階層をTier2と呼ぶ。 日本の場合、総務省が電話番号を管理している。1.8.e164.arpa はまだ登録 されていない。 3.2 ユーザENUMとオペレータENUM JPNIC ENUM研究グループでは、ENUMを利用方法により、大きくユーザENUMと オペレータENUMの二つに分類した。[ENUMstudygroup] 事業者が網の実現のために用いるものをオペレータENUMと呼ぶ。IP電話事業 者がENUMを用いて電話の経路制御を行なう場合や、事業者間のナンバーポータ ビリティを実現するため共有データベースとして用いる場合などがある。 一方、ユーザENUMは、電話番号を割り当てられたユーザが希望する内容を ENUM DNS に登録する方式である。一つの電話番号に対し、電話とemailやweb など、複数のサービスを登録し、ENUMクライアントによりサービスを選択する。 IETFやUKEG, ENUM Forumなどで一般的に検討されているENUMはユーザENUMであ る。 4. ENUMアプリケーション ENUMアプリケーションは、電話番号を入力するとENUMを検索し、その結果得 られたURIに接続する。 評価手順を以下に示す。 (0) ユーザが E.164 番号である AUSを入力する。 (1) AUSからドメイン名へ変換し、DNSクエリを行なう。 (2) DNS応答のうち、アプリケーションが対応しているサービスのエントリを選ぶ。 (3) order値が最も小さいものを選ぶ。 (4) regexpを評価し、preference値の小さい順に並べかえ、ユーザに選んでもらう。 (5) アプリケーションを呼び出す。 現在の携帯電話は、電話とwebブラウザ、emailの機能を含んでいる。また、 FAXと電話の機能を持つ端末が多い。また、PCはIP電話機能とemail・webブラ ウザの機能を持つことが可能である。そこで、複数の機能をもつ端末は容易に 実現可能である。 そこで、SIP電話とemail機能を持つ端末を考える。着信を受けたいユーザは 各自の電話番号のENUM DNS にSIP URIとemailアドレスが登録しておくとする。 この場合に、発信ユーザがSIPとemailに対応したENUMアプリケーションに電話 番号を入力し、ENUM検索を行なうと、SIPとemailの選択肢を出すことができる。 音声での通話をしたい場合、まずSIPにより電話をかけてみて、相手が不在の 場合にはemailを送るということが可能となる。 5. 参考文献 5.1 RFC [RFC1528] RFC1528,1529,1530 Principles of Operation for the TPC.INT Subdomain [RFC2916] RFC2916 E.164 number and DNS. [RFC3026] RFC3026 Liaison to IETF/ISOC on ENUM. R. Blane. January 2001. [RFC3245] RFC3245 The History and Context of Telephone Number Mapping (ENUM) Operational Decisions: Informational Documents Contributed to ITU-T Study Group 2 (SG2) [RFC3401] RFC3401,3402,3403,3404 Dynamic Delegation Discovery System (DDDS) [RFC3761] RFC3761 The E.164 to Uniform Resource Identifiers (URI) Dynamic Delegation Discovery System (DDDS) Application (ENUM) [RFC3762] RFC3762 Telephone Number Mapping (ENUM) Service Registration for H.323 [RFC3764] RFC3764 enumservice registration for Session Initiation Protocol (SIP) Addresses-of-Record 5.2 ENUM関連Internet Drafts [id-experiences] draft-ietf-enum-experiences-00.txt ENUM Implementation Issues and Experiences [id-webft] draft-ietf-enum-webft-00.txt IANA Registration for ENUMservices web and ft status: IESG Lastcall 20040825まで [id-msg] draft-ietf-enum-msg-02.txt IANA Registration for ENUMservices email, fax, mms, ems and sms status: IESG Lastcall 20040825まで [id-pres] draft-ietf-enum-pres-01.txt Enumservice Registration for Presence Services status: IESG 処理中 [id-fax] draft-ietf-fax-faxservice-enum-03.txt IFAX service of ENUM status: IESG Lastcall完了 [id-void] draft-stastny-enum-void-00.txt IANA Registration for enumservice void status: WG draftにすることが決まった 5.3 ITU-T Recommendation [E164] E.164 (05/97) The international public telecommunication numbering plan [E164-S3] E.164 Supplement 3 (05/02) Principles, criteria and procedures for the assignment and reclamation of E.164 country codes and associated identification codes for groups of countries 5.4 日本のENUM関連組織報告書 [ENUMstudygroup] ENUM研究グループ報告書 2003年5月23日 http://www.nic.ad.jp/ja/enum [ETJP] ENUMトライアルジャパン第1次報告書 2004年5月12日 http://etjp.jp/about/activity/20040512/ETJPreport0512.pdf 6. 変更履歴 2004年1月 2003年度WIDE報告書向けに執筆 2004年8月 WIDE Draft向けにRFC, Internet Draftを中心に更新 Copyright Notice Copyright (C) WIDE Project (2004). 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