Title: Mobile IPv6 & VoIP勉強会報告 Author(s): Keiichi SHIMA (keiichi@iijlab.net) Date: 2005/1/12 [Copyright Notice] Copyright (C) WIDE Project (2005). All Rights Reserved. [Mobile IPv6 & VoIP勉強会] Mobile IPv6 & VoIP勉強会は、IP層での移動通信技術とIP電話サービスの連携 が進んでいない現状を踏まえ、実際に技術開発を手がけている現場技術者間で 知識の交換、サービスの形態などを議論することで、移動IP電話において、IP 層での移動通信技術とIP 電話技術の連携の可能性を探るものである。 [勉強会の背景] 現在、IP網における音声通話(VoIP)サービスを実現する手段としてSIPの採用 が進んでいる。また、既存の電話番号体系を用いてインターネット上の様々な サービスへアクセスするENUMにも注目が集まっており、様々な実装と製品の開 発、あるいはサービスの試行と運用が開始されている。 一方、IPレベルでのネットワークローミングを実現し、IP層に移動通信機能を 付加するためのMobile IP技術は、もともとIPによる携帯電話の実現を目指して 設計されたプロトコルである。現在のところ、IPレベルでのローミングは、様々 な技術的、インフラ的要因から実現できていないが、将来的なオールIPの世界 を考慮した際に、これらの技術を組み合せることで、メディア、キャリアを選 ばない移動電話が実現できる可能性がある。しかしながら、Mobile IP技術に対 する世間的な興味は薄く、本来のターゲットであったVoIP関連の技術者の関心 も低いままである。 [勉強会の目的] SIP[RFC3261]、ENUM[RFC3761]などのIP電話サービスとMobile IPv6[RFC3775,RFC3776]、NEMO[nemo-basic]などの移動通信技術を融合するこ とで、将来のオールIPネットワークにおける移動電話サービスが理論的には実 現可能になると考えられる。IPv6モビリティ技術とVoIP技術という、異なる技 術の融合は、それぞれの技術を正しく身につけていなければ成功しない。本勉 強会は、これらの技術の融合のための第一歩として、関連技術者が自分の得意 分野の技術を他の分野の技術者と共有することで、お互いの知識レベルを向上 し、IP移動電話サービスを実現するための技術を正しく選択できるようになる ことを目的とする。 [勉強会のまとめ] 勉強会では、IPv6モビリティ分野に習熟している技術者として、KAMEプロジェ クトおよびUSAGIプロジェクトの開発者を招き、IPv6モビリティの基本仕様で あるMobile IPv6、および、NEMOの仕様を学習した。また、KAMEプロジェクト およびUSAGIプロジェクトが実際に実装したMobile IPv6、NEMOスタックを例に 挙げ、仕様がどのように実装に反映されているのかを理解した。 Mobile IPv6/NEMOは、論理的なアドレスを固定することで、IPv6層でのノード の移動を隠蔽できるという利点があるものの、現在公開されている多くのアプ リケーションではアドレスが一定であることを前提としていない。長い間、IP アドレスが動的に割り当てられる運用が取られててきたため、アプリケーショ ンはIP層ではなく、より上位の層で接続を維持する方向へ発展してきた。アド レスが固定であることは、サーバーソフトウェアにとって有利である。今後IP モビリティを活用する方法としては、移動する小型サーバー的な使い方への応 用が適切であると思われる。 また、基本仕様は完成しているものの、実際の運用モデルや、サービス提供方 法、Mobile IPv6/NEMO 用のネットワーク設定方法などの経験および知識が不 足しているため、実運用を考慮した現実的なネットワーク構築を考えていく必 要もある。 VoIP分野からは、ソフトフロント、JPRSから開発者を招き、SIP、ENUM の仕様 を学習した。膨大な量が定義されているSIPシグナリングの仕様を、その目的 を知ることで理解し、またサービスが普及していくに従って発生すると思われ る潜在的なセキュリティの脅威を議論した。さらに、広く普及している電話番 号体系であるE.164とIP電話の融合の鍵となるENUM技術と、現在の試験運用の 実体を学んだ。 日本では、ISP主導によるVoIPサービスの展開が急速に進んだため、SIPを用い たVoIPが普及した。残念ながら、各社がサービスの展開を急いだため、標準仕 様が存在するにもかかわらず、SIPサービス間での相互接続が容易にはできな い状況が発生している。また、現状、VoIPをISPのサービス網内に閉じること である程度のセキュリティを確保しているが、今後相互接続組織が拡大し、イ ンターネット上の一サービスとして運用されるようになると、電子メールの世 界で発生しているような迷惑電話、DNS空間を検索することによるプライバシ の問題などの発生が予想される。SIPやENUMを用いたIP電話を押し進めていく 過程で、メールが辿ったような問題を未然に防ぐための技術の考察、運用モデ ルを並行して検討する必要がある。 [今後の方針] 本勉強会は2005年1月で予定していたスケジュールを完了する。現在、VoIPはイ ンターネット上の魅力的なアプリケーションとして脚光を浴びており、今後も 関連サービスが伸びていくと予想される。一方、Mobile IPv6を始めとする、 IP層における移動通信プロトコルは、基本仕様の策定は完了したものの、現実 のネットワーク上ではまだ広く応用されているとは言い難い。過去の電話サー ビスの流れを考えた場合、IP電話サービスが将来的に移動体に広がっていくこ とは大いに予想される。今後は、将来のIP移動電話におけるモデルの提案と、 実稼働へ向けた努力を進めていくことになるだろう。 [参考文献] [RFC3261]: "SIP: Session Initiation Protocol", J. Rosenberg, H. Schulzrinne, G. Camarillo, A. Johnston, J. Peterson R. Sparks, M. Handley, E. Schooler, RFC 3261, June 2002. [RFC3761]: "The E.164 to Uniform Resource Identifiers (URI) Dynamic Delegation Discovery System (DDDS) Application (ENUM)", P. Faltstrom, M. Mealling, RFC 3761, April 2004. [RFC3775]: "Mobility Support in IPv6", D. Johnson, C. Perkins, J. Arkko, RFC 3775, June 2004. [RFC3776]: "Using IPsec to Protect Mobile IPv6 Signaling Between Mobile Nodes and Home Agents", J. Arkko, V. Devarapalli, F. Dupont, RFC 3776, June 2004. [nemo-basic]: "Network Mobility (NEMO) Basic Support Protocol", Vijay Devarapalli, Ryuji Wakikawa, Alexandru Petrescu, Pascal Thubert, draft-ietf-nemo-basic-support-03.txt, June 2004.