Title: netnice-wg 2004年活動報告 Author(s): 奥村 貴史 (taka@wide.ad.jp) Date: 2005/1/7 エンドホストOSにおける汎用ネットワーク制御機構の研究開発 ■ Netnice WGの概要と目的 エンドホストOSでは、QoS制御機構やパケットフィルタなど多くのネットワー ク制御機構が実装されてきた。しかし、これらの機構は、基本的にシステム管 理者のための静的な設定・管理ツールとして設計されており、ネットワークア プリケーションが自らのトラフィックの帯域制御に利用したり、システムのユー ザがトラフィックを動的に制御するために利用することが困難であり、ネット ワークアプリケーションの発展にとって大きな制約となりつつある。 たとえば、ウェブサーバにおいては、画像や大きなファイルなどの重いコンテ ンツは後回しにして、大事なドキュメントだけをとにかく早く処理するような 制御を行いたいという要望は多い。音声や動画などの通信品質を上げるために、 ネットワークの状態を正確に測定し通信に影響を与えうる他のトラフィックを 自動的に調整するようなQoSマネージャが効果的に機能する状況は少なくない だろう。また、アプリケーションが、スパムやウィルスを効果的に検出し統制 しうるような機構は、システムセキュリティの向上のために重要だ。 Netniceは、既存の実装では実現のできないこのように柔軟で強力なトラフィッ ク制御サービスをシステム上のすべてのユーザやアプリケーションにもたらす 先進的なネットワーク制御機構である。ルータにおけるトラフィック制御モデ ルをそのままエンドホストに適用した従来の実装と異なり、階層的な構造を有 した新たなネットワーク制御モデルを採用することにより、柔軟な制御をシス テム資源を保護しつつ低コストに実現することができる。 Netnice WGでは、エンドホストOSにおける汎用ネットワーク制御サービスとそ の多彩なアプリケーションの確立を目指し、この新たな制御モデルをアプリケー ションやカーネルサービスなどの幅広い視野から検討することを中心に、普及 に向けた研究開発を行っている。本年度は、後述するように、未踏ソフトウェ アプロジェクトとしてプロトタイプ実装の他OSへの移植とアプリケーションの 研究開発を主として活動した。関連したドキュメントは、Netnice.ORGプロジェ クトホームページ(http://www.netnice.org)に整理されている。また、WG用に Wikiを運用し情報交換に役立てているので、適宜ご参照願いたい (http://www.netnice.org/wide/ User: widereport、Password: narrowreport)。 ■ 未踏ソフトウェアプロジェクト Netnice WGは、上述したような既存のネットワーク制御機構における問題点の 克服を目標とし、独立行政法人情報処理推進機構の実施する「未踏ソフトウェ ア創造事業」に対して、Netniceシステムの今年度の開発計画を提案し、支援 対象として採択して頂いた。そこで、WGとしても、この開発計画に即した形で Netniceの「マルチプラットフォーム化」「対応アプリケーションの拡充」「 広報の充実」を3本柱として活動を行った。以下では、それぞれの状況を簡単 に報告させて頂く。 ・マルチプラットフォーム化 このプロジェクトでは、まず、今までFreeBSD4上で開発されてきたNetniceカー ネルモジュールのFreeBSD5、NetBSD、OpenBSD、Linux、MacOS Xへの移植を試 みた。そのために、ムンバイ(インド)やピッツバーグにて移植合宿を企画し、 移植コアチームによる集中的なコードレビューを行うなどした。できるだけ早 くに各プラットフォームにおけるα版の開発を終え、順次βテストを開始して いきたいと考えている。今回の活動によりマルチプラットフォームなネットワー ク制御サービスが実現すれば、それぞれのOS毎に独立して開発が行われている 既存のトラフィック制御機構の開発方針に対しても意義深い問題提起となるの ではないかと期待している。 ・対応アプリケーションの拡充 また、エンドホストOSにおける汎用的なネットワーク制御機構の意義を世の中 に問うためには、魅力的なアプリケーションの充実が不可欠だ。そこで、 Apache用ネットワーク制御モジュールであるmod_netniceに注目し、作業過程 を公開しながら新バージョンの開発を進めていくプロジェクトを実施した。こ の企画には、新バージョンへの要望などかなりの反響があった。また、OSに依 存しない汎用ネットワーク制御サービスを提供するネットワーク制御ライブラ リlibnetniceの開発を開始した。今後は、libnetniceを用いた各種ネットワー クアプリケーションのトラフィック制御や、BPF互換のNetnice Packet Filter を利用したセキュリティアプリケーションなどの研究開発を進めたい。 ・広報の充実 また、本プロジェクトのような基盤ソフトウェアの開発プロジェクトにとって、 開発者コミュニティとの良好な関係構築はきわめて重要だ。とりわけ、既存の ネットワーク制御機構は既に各OSとの統合が行われ広範に利用されていること から、新たな制御機構が開発者からの支持を得るためには、まずは、既存の実 装の問題点について、コミュニティーのコンセンサスを得ることが不可欠だ。 そしてその上で、我々の試みがその問題に対する解の一つとなりうるという主 張に対して、賛同を得ていかなければならない。以上の観点から、本WGは広報 の充実を重視し、機会があるごとに開発者コミュニティーとの意見交換を行い 問題提起に努めた。WIDEプロジェクト内部では、3月の春合宿、6月の研究会、 9月の秋合宿、12月研究会において発表やBoFを行った。対外的には、Interop におけるBSD BoFやIPAのセミナーなどで発表を行い、11月にはNetniceアプリ ケーションについての公開BoFを企画した。成果の研究発表や商業誌への寄稿 も積極的に行っており、今後も機会があるごとに開発者コミュニティとの交流 を試みたいと考えている。 ■ おわりに 本WGが提唱する階層的なネットワーク制御モデルは、既存のルータにおけるト ラフィック制御モデルと大きく異なることから、従来のモデルに慣れ親しんで きたネットワーク系の研究開発者からは否定的に受け取られることが多かった。 しかし、上述したようなさまざまな活動を通じて、一般の開発者やOS研究者を 中心として好意的な意見を頂く機会が増えており、手応えを感じはじめている。 一般化への道は決して平坦ではないが、ネットワーク技術の一層の発展に向け、 カーネルモジュールの完成度を高め、また、アプリケーションの充実を図るな ど努力を重ねたい。今後とも、WGの研究開発活動にたいする幅広いご支援・ご 協力をお願いしたい。 ■ 2004年度の主な活動 2004/12/17-18 WIDE研究会: WG紹介・ポスター発表・BoF 2004/11/29 Netnice Applications BoF@津田ホール 2004/11/22-23 未踏ソフトウェア中間報告会@つくば国際会議場 2004/9/6-9 WIDE秋合宿: WG紹介・BoF 2004/8/5-8/20 ピッツバーグ合宿 (OpenBSD移植作業) 2004/8/1 ホームページ完全Wiki化 2004/7/18 第2回移植チームミーティング@IRI会議室 2004/7/11-14 ムンバイ合宿 (Linux移植作業) 2004/7/10 第1回移植チームミーティング@IRI会議室 2004/7/7 CRESTセミナーにて発表@筑波大学 2004/7/2-3 未踏キックオフセミナーにて発表@京都リサーチパーク 2004/7/1 Netnice BoF@Networld+INTEROP 2004/6/30 BoF「BSDなひととき」にて発表@Networld+INTEROP 2004/6/27 評価用Bootable CDROMをリリース 2004/6/10 未踏用Wikiの構築 2004/6/8 Linux版移植開始 2004/6/4-5 WIDE6月研究会: WG紹介・ポスター発表 2004/5/26 IPA未踏ソフトウェアに採択 2004/5/10 Netniceミーティング@根津 2004/4/7 IPA未踏ソフトウェアに応募 2004/3/16 WIDE春合宿: WG紹介・BoF 2004/2/17 WGの公式開始日 ■ 参考文献 本文中で直接参照はされていないが、実装や制御モデルの理解に役立つ参考 文献として、下記を紹介しておく。また、開発者向けの技術資料としては、 Netnice.ORGのプロジェクトホームページ(http://www.netnice.org)に整理 されている。 T. Okumura and D. Mosse', "The Netnice Packet Filter: Bridging the Structural Mismatches in End-host Network Control", IEEE INFOCOM2005, Mar 2005. T. Okumura and D. Mosse', "Virtualizing Network I/O on End-host Operating System: Operating System Support for Network Control and Resource Protection", IEEE Transactions on Computers, Oct 2004. T. Okumura, D. Mosse', M. Minami, and O. Nakamura, "Quality of Service Manager for Load-Balancing Clusters: An End-host Retrofitting Event-Handler approach by netniced", in proc of CCGrid 2003 (The 3rd IEEE/ACM International Symposium on Cluster Computing and the Grid), May 2003.